幼い頃から、竹カゴを持って親父と出かけた有明の海。 漁師になることは自然な流れだった。
ーー田中さんは刺網漁をされているとか?どんな漁なのか教えてください。
もともと実家は潜水業で二枚貝を獲る漁家でした。小学生の頃は休日になると「今日は休みやろ?海に来んか」って、よく親父に海に連れて行かれたものです。親父の背中を見ながら16歳の頃に漁師を始め、有明海で貝やクルマエビを獲るようになりました。私の漁は「源式網漁」といって、潮の流れを利用した刺網漁。満潮時に海に出て、潮が引くのを待ってから網を張って放置。しばらくして、海底をさらうように網を引き上げると、クルマエビやアナゴ、クツゾコ、カニなどいろんなものが獲れて。昔は多い時に、1日でクルマエビが20キロも獲れたこともあったね。
豊富な栄養分や海水の比重、潮の流れの速さ。 自然条件の揃った有明海の天然クルマエビは、甘みも弾力も絶品。
ーー有明海で獲れるクルマエビは、他のクルマエビと比べてどう違うのですか?
クルマエビは1週間~10日くらいで脱皮して、それを繰り返しながら大きくなっていくんだけど、有明海は栄養分が豊富だから成長スピードがものすごく早い。それに、潮の流れが速いから身が引き締まって弾力もあって、コリコリどころじゃない、「ゴリゴリ」とした食感なんですよ。味も格別で、普通のエビは頭の部分に苦味があったりするけど、有明海のクルマエビは全然違う。焼いて食べたら自然の甘みがたっぷりで、何とも言えないおいしさ。昔はこの辺のクルマエビを1匹食べたら病気が治るって言われたくらい、栄養もあって重宝されていましたよ。
環境の変化に目をそむけて獲り続けても未来はない。 豊かな海の可能性を信じて、漁連・行政とともに歩む。
ーークルマエビ漁の再生を目指して、取り組んでいることを教えてください。
今は環境が変化しているせいか、昔ほどはクルマエビが獲れなくなってきました。温暖化とか外来魚の侵入とかいろいろ問題はあるだろうけど、獲るだけではダメですよね。自分たちで努力して海を守っていかないと。私も稚エビの放流作業に取り組んだり、モニタリング調査に協力したり、この漁場を後生に残していきたいという一心で頑張っています。漁連には「網漁をやりたい」と思った人に資金援助してもらえるように働きかけてますよ。いろんな生き物が掛かる網漁のおもしろさとか、「有明海のクルマエビは本当においしい!」ってうれしそうに食べてくれる消費者の姿とか、若い人たちに伝えたいことはいっぱいあるんですよ。漁家と漁連、行政の三者みんなで協力しながら元気な有明海に戻して、「網漁はいいぞ!獲り方を教えてやるから来んね」って、仲間を増やしていきたいですね。