6メートルの干満差を利用した、有明海独特の「支柱式」養殖。 海中で栄養を吸収し、日光で旨味を閉じ込め、高品質の海苔に。
ーー福岡有明のりならではの特長について教えてください。
最大約6メートルという干満の差が激しい有明海では、「支柱式」という方法で海苔を育てます。支柱に網を宙づりにする支柱式の養殖は、潮の干満によって日に干されたり、海水に浸かったりの繰り返しで、旨味が凝縮された美味しい海苔になるんです。
有明海は一級河川の筑後川や矢部川が流れ込む栄養豊富な漁場なので、ミネラルやアミノ酸が豊富。それに海水の比重も低いから、柔らかくて口溶けのよい海苔になるんですよ。歯切れの良さと旨味は全国でも1、2を争うほどだと自信を持っています。
自然が相手の仕事だから、苦労も難しさもある。 それでも続けてこられたのは、海苔に賭ける熱い想い。
ーー支柱式とはどんな養殖法ですか?海苔養殖で大変なことはありますか?
9月に入るといよいよ海苔養殖が始まります。約1カ月の間に3500本の支柱を人力で立てて、10月中旬頃に種付が解禁されると、海苔の種(胞子)の入ったカキ殻を網にぶら下げ、海面に張ります。カキ殻から出た胞子が網に付着して海苔が成長していくんですが、カキ殻を網から外す「芽付き」の調整が一番難しいですね。種が付きすぎても病気になって育ちが悪くなるし、少なすぎると収穫量が減ってしまうので、顕微鏡で見ながら慎重にタイミングをはかります。
この仕事は自然相手だから難しいところもありますが、大変だなと思ったことはありません。12月~3月は出荷で忙しくなるけど、この3カ月間で1年分の収入を稼いでいるようなもんですから、多少きつくても大したことないですね。
「こんなの食べたことない!この海苔、おいしいね」 みんなの笑顔に、海苔師になってよかったと心から思える。
ーー海苔師としてのやりがいや、これからの夢について聞かせてください。
私も海苔師になって20年近く経ちますが、何年やっても1年生みたいな気持ちです。水温や気候のちょっとした違いで、その年の海苔の出来は全然違ってきますから。
その年に出来上がった海苔をみんなが食べて、「おいしい!」って喜んでくれた時は本当にうれしいですね。もっとみなさんに食べてもらいたいのは「一番摘み」の海苔。昔はお歳暮やお中元、贈り物の品として扱われていた高級品で、全体の生産量の約10%しか獲れないほど貴重な海苔なんですよ。昔に比べると海苔の需要も減っていますが、年に一度の特別な日くらいは一番摘みの海苔を使った手巻き寿司を食べて、海苔本来のおいしさを味わってほしい。「海苔ってこんなにおいしいんだよ」って、子どもから大人まで、福岡有明のりのファンを増やしていくことが、これからの海苔の需要拡大につながっていくと信じています。